髪が抜けてしまうのはなぜ?

髪の毛は、皮膚の下にある毛包という構造から生えています。
髪がどのようにして形成され、成長し、脱落するのかを理解するためには、髪の構造とその生理的な過程を詳細に知る必要があります。
以下に、髪の毛がどのようにできるのか、そのプロセスを詳しく説明します。

髪の構造
髪の毛は主に三つの部分から成り立っています。

 

1.毛幹(ヘアシャフト)

毛幹は頭皮の表面に見える部分で、死んだ角質細胞が密に積み重なって形成されています。毛幹は主にケラチンというタンパク質で構成されており、これが髪の強度と弾力を提供します。
毛幹の内部は中心部の「髄質」、その周囲の「皮質」、最外層の「キューティクル」の三層からなります。キューティクルは髪を保護する役割を果たし、髪のツヤや質感に影響を与えます。


2.毛根(ヘアルート)

毛根は皮膚の下にあり、毛包の内部に位置しています。ここで髪の成長が始まります。毛根の最下部には「毛球(ヘアボル)」と呼ばれる部分があり、この部分には毛母細胞が集まっています。毛母細胞が分裂し、成長することで髪が長くなります。


3.毛包(毛根鞘)

毛包は髪の毛根を包み込む構造で、皮膚の表皮層から伸びた深い構造です。毛包は毛根を支持し、栄養を供給する役割を果たします。毛包の中には、毛根を取り囲む「毛乳頭(パピラ)」や「皮脂腺(セバセオス腺)」があり、これらは毛の成長と健康に必要な脂質を分泌します。

髪の成長サイクル
髪の成長は、三つの主要なフェーズから成るサイクルで行われます

 

1.成長期(アナゲン期)

この段階では、毛母細胞が急速に分裂し、新しい髪が生成されます。成長期は髪の長さに大きく影響し、この期間は数年から十数年続くことがあります。成長期の長さは遺伝的要因や個人の体調によって異なります。


2.退行期(カタゲン期)

成長期が終わると、退行期に入ります。この期間は短く、数週間から数ヶ月続きます。このフェーズでは、毛母細胞の活動が減少し、毛根が縮小します。髪の成長が止まり、毛球が縮小して「毛根鞘」に取り込まれる過程が進行します。


3.休止期(テロゲン期)

休止期では、髪の成長が完全に停止し、髪は毛包の中に留まります。この期間も数ヶ月続き、その後、古い髪は自然に抜け落ち、新しい髪が成長を始めます。髪が抜けることは自然なプロセスであり、通常、成長期が再開すると新しい髪が生えてきます。

髪の生成過程
髪の生成は毛母細胞の活動から始まります。毛母細胞は基底層に位置し、次々に新しい細胞を生成していきます。
これらの細胞は角化(ケラチン化)して硬化し、毛幹となって髪が伸びるわけです。
毛母細胞が分裂する過程で、髪の芯が作られ、その周囲にケラチンが積み重なっていきます。

毛乳頭は毛母細胞に栄養を供給し、また血液供給も行っています。
毛乳頭には血管が豊富に存在し、髪の成長に必要な酸素や栄養素を供給します。
毛乳頭から分泌される成長因子やホルモンも、髪の成長を調整する重要な役割を果たします。

髪の色と質
髪の色はメラニンという色素によって決まります。
メラニンは二種類、ユーメラニン(黒または茶色)とフェオメラニン(黄色または赤)があり、これらの割合によって髪の色が決まります。
年齢とともにメラニンの生成が減少すると、髪は白くなります。

髪の質や質感は、キューティクルの状態や毛髪の内側の構造に大きく影響されます。
キューティクルがしっかりと閉じていると髪は滑らかで光沢があり、逆に開いていると髪が乾燥し、もろくなります。

髪の健康
健康な髪を維持するためには、適切な栄養、良好な生活習慣、ストレス管理が必要です。
ケラチンを構成するアミノ酸やビタミン、ミネラルを十分に摂取することが、髪の質や成長に大きく影響します。
また、適切なヘアケアやスカルプケアも、健康な髪を保つために重要です。

髪は非常に複雑で精緻な構造を持ち、様々な要因が絡み合ってその健康が維持されています。
髪の成長や健康を理解し、適切なケアを行うことで、美しく健康な髪を保つことができます。

それでは髪の毛が抜ける理由は、複数の要因が絡み合っていることが多く、その理解には生理的、遺伝的、環境的、そして病理的な要因を総合的に考慮する必要があります。
以下に、髪が抜ける主要な理由を詳しく説明します。

 

1. 遺伝的要因(男性型・女性型脱毛症)

男性型脱毛症(AGA)
男性型脱毛症は、遺伝的要因とホルモンの影響により進行する最も一般的な脱毛症です。主に成人男性に見られ、頭頂部や前頭部の髪が薄くなります。この状態は、テストステロンという男性ホルモンがジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、そのDHTが毛根に作用して髪の成長サイクルを短縮させることによって引き起こされます。これにより、毛根が徐々に縮小し、髪の成長が遅くなるため、髪が薄くなっていきます。

女性型脱毛症
女性型脱毛症も遺伝的要因が関与しているものの、男性型脱毛症とは異なり、髪全体が徐々に薄くなるのが特徴です。ホルモンの影響もありますが、具体的なメカニズムは男性型とは異なる場合が多いです。エストロゲンの減少や体内のホルモンバランスの変化が関与することがあります。

 

2. ホルモンの変化

妊娠・出産
妊娠中は、女性の体内でエストロゲンが増加し、このホルモンが毛の成長を促進します。そのため、妊娠中は髪が健康で豊かに見えることがあります。しかし、出産後にはホルモンのバランスが急激に変わり、エストロゲンのレベルが低下します。このホルモンの変動が原因で、一時的に大量の髪が抜ける「産後脱毛症」を引き起こすことがあります。

更年期
女性の更年期においては、エストロゲンの分泌が減少するため、脱毛が進行することがあります。ホルモンバランスの変化が毛髪の健康に影響を与え、髪が細くなることがあります。

 

3. ストレス

ストレスは体全体にさまざまな影響を及ぼし、髪の成長サイクルにも影響を与えます。急性のストレスや肉体的なストレス(病気や手術など)は、テロゲン脱毛症を引き起こすことがあります。この状態では、髪の成長サイクルが突然テロゲン(脱毛期)に移行し、多くの髪が一度に抜けることがあります。ストレスの原因が解消されると、髪は再び生え始めることが多いですが、時には治癒に時間がかかることもあります。

 

4. 栄養不足

健康な髪の成長には、適切な栄養が不可欠です。鉄分、ビタミンD、ビタミンB群(特にビオチン)、亜鉛などが不足すると、髪の質や成長に悪影響を及ぼすことがあります。例えば、鉄分不足は鉄欠乏性貧血を引き起こし、結果的に脱毛が進行することがあります。栄養バランスの取れた食事を心がけることが、髪の健康を維持するためには重要です。

 

5. 皮膚疾患

円形脱毛
円形脱毛症は、自己免疫疾患の一つであり、免疫系が誤って毛根を攻撃することによって発症します。特定の部位に円形の脱毛斑ができ、髪が突然抜けることがあります。治療方法には、ステロイド治療や免疫療法があり、早期に対応することで回復が期待されます。

脂漏性皮膚炎
脂漏性皮膚炎は、頭皮に油っぽさと炎症を引き起こす皮膚疾患です。この状態が進行すると、頭皮の健康が損なわれ、脱毛が進むことがあります。適切な治療とケアが必要です。

 

6. 薬の副作用

いくつかの薬が脱毛の副作用を引き起こすことがあります。特に抗がん剤抗うつ薬、血圧の薬などが関連しています。これらの薬が髪の成長サイクルに影響を与え、一時的に髪が抜けることがあります。副作用が懸念される場合は、医師に相談し、可能な対策を講じることが重要です。

 

7. 自己免疫疾患

自己免疫疾患の一部は、髪の健康に影響を与えることがあります。自己免疫疾患では、体の免疫系が自分の体の一部を攻撃するため、髪が抜けることがあります。具体的な疾患としては、自己免疫性脱毛症やループス(狼瘡)などがあります。

以上のように、髪が抜ける理由は多岐にわたり、それぞれの原因に応じた適切な対策が必要です。
脱毛の原因を特定し、効果的な治療法を見つけるためには、専門医に相談し、必要な検査や診断を受けることが重要です。
医師は、症状や背景に応じて最適な治療やアドバイスを提供してくれます。

抜け毛や薄毛の問題は、多くの人にとって深刻な悩みとなることがあります。
抜け毛対策を講じるためには、まずその原因を理解し、それに対処するための適切なアプローチを選ぶことが重要です。
以下に、抜け毛対策について詳細に説明します。

 

1. 健康的な生活習慣の確立

バランスの取れた食事
髪の健康は、体全体の健康と直結しています。髪の主成分であるケラチンの生成には、以下の栄養素が重要です。

タンパク質: 魚、鶏肉、大豆製品、卵など。
ビタミンB群: ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB12、ビタミンB6などが髪の健康に寄与します。これらは肉類、魚、卵、ナッツ、緑葉野菜などに含まれています。
ビタミンD: 髪の成長を促進する役割があるとされています。日光を浴びることや、魚類、卵、強化された食品から摂取できます。
鉄分: 鉄欠乏症は脱毛の原因になることがあります。赤身肉やレンズ豆、ほうれん草などから摂取できます。
亜鉛: 免疫機能と細胞の修復に関与しており、髪の健康を維持します。肉類、ナッツ、シーフードに含まれています。
適度な運動とストレス管理
運動は血行を促進し、髪の成長を助けます。また、ストレスは脱毛の原因となることがあるため、リラクゼーションや趣味を持つこと、十分な睡眠をとることが大切です。

 

2. 適切なヘアケア

シャンプーとコンディショナーの選択
髪と頭皮の状態に合ったシャンプーとコンディショナーを選ぶことが重要です。特に刺激の少ない、保湿効果のある製品を使用することで、頭皮の健康を保ちます。また、過剰な洗髪や強いマッサージは頭皮を傷める原因となるため、適度な頻度で優しく洗うことが推奨されます。

頭皮マッサージ
定期的な頭皮マッサージは血行を促進し、毛根に栄養を届ける助けになります。指の腹を使って優しくマッサージすることで、リラックス効果も得られます。

熱や化学薬品の使用を控える
過度なヘアドライヤーの使用や、パーマ、カラーリングなどの化学処理は髪を傷める原因になります。これらの使用頻度を減らし、適切なヘアケアを行うことで髪の健康を保つことができます。

 

3. 医療的アプローチ

薬物治療
ミノキシジル: 外用薬として使用され、毛根の血行を促進し、髪の成長を助けることが確認されています。特に男性型脱毛症や女性型脱毛症に有効です。
フィナステリド: 内服薬で、男性型脱毛症の治療に使用されます。DHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑えることで、脱毛を遅らせたり、髪の再生を促進します。ただし、副作用があるため、医師の指導のもとで使用する必要があります。
ヘアトランスプラント
薄毛や脱毛が進行した場合、毛根を移植するヘアトランスプラント手術も選択肢の一つです。自分の毛髪を使って薄毛の部分に移植することで、自然な見た目の髪の毛を再生させることができます。

レーザー治療
低出力レーザーを用いて頭皮の血行を促進し、毛根の健康を改善する治療法もあります。これにより、髪の成長が促進されることがあります。

 

4. ホルモンバランスの調整

ホルモン治療
ホルモンの影響で脱毛が進行する場合、ホルモンバランスを整える治療が有効です。特に女性型脱毛症の場合、エストロゲンの補充療法などが考えられますが、医師の診断と処方が必要です。

メノポーズやプレメノポーズの対応
更年期やプレ更年期の女性には、ホルモン補充療法(HRT)を受けることで、エストロゲンレベルを調整し、脱毛の進行を抑えることができる場合があります。

 

5. 自己ケアと予防

ストレス管理
ストレスが脱毛の原因となることがあるため、適切なストレス管理が重要です。リラクゼーション法や趣味を持つこと、またメンタルヘルスを保つためにカウンセリングを受けることも考えられます。

禁煙と適量のアルコール摂取
喫煙は血流を悪化させ、髪の健康に悪影響を与えます。禁煙をすることで髪の健康が改善される可能性があります。また、アルコールも過度に摂取すると脱毛の原因となることがあるため、適量を守ることが推奨されます。

 

6. 日常生活の見直し

環境の改善
頭皮の環境を整えるためには、乾燥や過度な湿気を避け、清潔な状態を保つことが重要です。外的な要因によるダメージを最小限に抑えることが、健康な髪の維持に繋がります。

適切なヘアスタイルの選択
髪に過度な負担をかけるヘアスタイル(例: 強いポニーテールや編み込み)を避けることで、髪の引っ張りによる脱毛を防ぐことができます。

 

7. 早期の対処

髪の悩みが始まった段階で早期に対処することが、問題を悪化させずに解決するための鍵です。早期に医師や専門家に相談し、適切な対策を講じることで、脱毛の進行を防ぎ、髪の健康を維持することができます。

これらの対策を組み合わせることで、髪の健康を保ち、抜け毛を防ぐことができます。
ただし、個々の状況や体質によって最適な対策は異なるため、専門医の診断を受けることが重要です。